レビュー 『ホーリーランド』

人が居て、自分が居る。
組織をつくり、経済活動をする。
人間は社会的な動物だ。


「人は一人では生きていけない」などという。
それはつまり「他人とともに生きなければならない」という意味でもある。
こんな面倒なことはない。
 自分の思い通りにならない奴らに合わせて行動する
 自分の存在価値を他人が判断する
これらの条理に従わないものは排除される。
「居場所」を奪われる。
他人の勝手な都合と価値判断によって。


唯一、この檻から逃れる方法。
「暴力」
他人を抑え、自分を通すことができる手段。
たとえ資本主義法治国家にあろうと即時的効果を発揮する。


己を守るために身に付けた力、それはあくまで受身の防衛行動に過ぎない。
一方、自分の居場所を作るための力は攻撃を伴う。
「居場所がある」と感じられるまでその攻撃が止まることはない。
居場所を奪った者がそのトリガーを引き、連鎖が始まる。



暴力を伴った辛い過去が彼の内奥に凶暴な獣を育ててしまったのではないか



居場所は与えられるものでも、見つけるようなものでもない。
居場所はつくるものだということ。
その手段がたまたま暴力だったということだけの、とてもシンプルな話。
あとは人間の本性が暴力に根ざしていることを認めるかどうか。
それによって初めて、この作品を単なる格闘漫画に終わらせない捉え方ができる。


現代社会は人間の本性を押さえ込み、資本という別の、しかし死に至る暴力を振るう。
直接殴られたりしない、代わりに「社会的」に攻撃される。
これらを健全とするならば、暴力よりも性質が悪い。
抑圧されている(ようにみえる)人間の暴力性に焦点を当てることで、システム化された社会の欺瞞性をも指摘する。
現代社会は複雑なようでいて、その実、中身は原始と何ら変わっていないのではないか。
まだまだ大人になりきれない大人が読む一冊。


ホーリーランド (1) (Jets comics (846))

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