再評価 オリエンタルラジオ

「武勇伝♪武勇伝♪武勇デンデンデデンデン♪」でおなじみオリエンタルラジオ
…というか武勇伝ネタしか観たことがない人が大半ではないだろうか。
エンタの神様』から大ブレイクを遂げる。しかし後に実力不足として批判され冠番組は激減してしまう。
テレビで見る機会の少なくなったオリエンタルラジオ、彼らは今どうしているのか。


昨今『エンタの神様』の価値が暴落しているのに伴って叩き行為が蔓延している。笑いのレベルを低くした、ワンパターン、云々。たしかに現在では完全にインパクト・キャラクター重視の事前選考がなされ、その力がないと判断された芸人は出演することすら困難な状況である。また、ディレクターなど局の人間が芸の内容やキャラ付けに口を出すことも少なくないという。これは健全とはいえない状況だろう。
だが放映当初は新鮮に映ったのだ。当時はお笑い新世代発掘時代であり『お笑い登竜門』『ゲンセキ』『エンタの神様』など、ベテラン・若手・キャラといったいずれも「実力派」を発掘することをコンテンツにした番組が流行していた。だが当然ながら時代は移るものであり終わりがある。価値ある文化財を掘り尽くした時点で発掘作業は終了する、はずだった。だが唯一「キャラもの」はリサイクルが可能なのである。同じ芸人でも複数のキャラを持つことができるからだ。一つのキャラが飽きられたらまたキャラを作ればいい、という発想に基づくのが現在のエンタである。番組は存続するが芸人は使い捨て、この姿勢は叩かれても仕方ない。
また、芸人の出世コースが問題だ。現在、芸人のトークバラエティ番組への進出が著しい。だがそこで使われているのは単価の安い「キャラ芸人」出身者であり漫才・漫談でのし上がってきた芸人ではないことに注意しなければならない。キャラが受けていたのであり、漫談が面白かったから評価されたのではない。そもそも漫談が面白いのならとうにその分野で評価されているはずだ。キャラもトークもいける芸人は実はレアなのである。


これらの齟齬のあおりをもろにくらったのがオリエンタルラジオだ。武勇伝という「キャラネタ」によって人気を得た彼らをどう評価したらよいのか、事務所とテレビ局は悩んだ。結果、彼らの評価には「出世」というものさしが使われた。だが残念なことに、当時のものさしには「番組をいくつ持つか」という目盛りしかなかったのである。(このものさしは現在もあまり変わっていないが…。)
トーク番組の司会で武勇伝をやるのか、そんなことはできるわけがない。一時間ぶっつづけで漫才をするのか、そんなことは大御所だって無理だ。無論、若手であった彼らの芸の技量が足りなかったことは否めない、だが始めから番組とキャストの組み合わせに無理があったことは考慮されるべきだろう。
彼らは「実力不足」の烙印を押されたが、それは決して芸人としての資質の評価ではないことは今までとうとうと述べてきたとおりである。最近ではオリエンタルラジオの同期である「フルーツポンチ」「はんにゃ」が注目されているらしいが実力差は歴然だ。同期の彼らにはまだ単独でDVD一本分の作品を作り上げられる実力はない。


オリエンタルラジオはDVD作品として既に、2008年3月にオムニバスコント集『十』、2008年8月にツアーを収録した80分漫才の『才』をリリースしている。


十 [DVD]
処女作というものは往々にして制作者のやりたいことやパーソナリティを全て詰め込もうとする。それは歴代最高の評価を得たりする一方で、まるで自己満足で終わってしまったりする。この『十』はどちらでもない、ただただ不完全燃焼だ。
パッケージのコントはまず芸人がいる、そしてカメラマンが居て音響が居てディレクターが居て…。すなわち自由ではない、コントロールできない部分がありすぎる。『十』で最も面白い(と思う)メタ?コント「TAMPAK」のインタビュー部分において、会議の段階で「わかりにくい」との理由でスタッフからコント内容について反対された旨を話していることは象徴的だ。オリエンタルラジオ中田敦彦がやりたいこととスタッフがやらせたいことの噛み合わなさ。ネタと演出の噛み合わなさ。お金のかけ方と面白さの噛み合わなさ。すべてがギクシャクしてしまっている。「TAMPAK」の面白さをインタビュー形式で説明することを余儀なくされた悔しさは察するに余りある。芸人にそのネタについて本人に説明させるというのは辱める行為であるし、視聴者のリテラシーを低く見積もっていることの裏返しだ。テレビではなく、わざわざDVDを買ったり借りたりして「さぁ楽しませてもらおうか」と構えている視聴者のお笑いリテラシーが低いことがあるだろうか。メタコントとしてみることもできるが、演技・衣装・話法を作りこんでおらず素にしか見えない。正直どこまで本気なのか測りかねるが、そこも含めて面白い。


オリエンタルラジオ 全国漫才ライブツアー 才(ザイ) [DVD]
『才』では一転してお金を使わないことにこだわったそうだ。セットも使わず、あるのはスタンドマイク一本と中田が描いた背景だけだ。そこで延々と漫才をやり続ける。シンプル イズ ベスト。
彼らの漫才はとても現代的で洗練されている。教科書的と言い換えてもいいだろう。漫才内ミニコントの配分、相方いじりの配分、ブラックなネタの配分、そして全体の構成。全てのバランスがよい。前述要素のうち一点勝負の漫才師が多い中で全てを一定のレベルでこなせるのは強みでもあり弱みでもある。キャラネタを意図的に封印し「僕たちはあのネタだけじゃないんだ」「こんなこともできる、あんなことも…」と器用貧乏的に欲張ってしまうことによって独自の世界を築くまでには至っていない。意識しないようにすることが逆に意識を強めてしまう、よくあることだ。そんな張り詰めた気合の入り方が作品の勢いを後押ししており、いつか壊れてしまうんじゃないか?と思わせるほどの危うさも魅力の一つとして昇華されている。なんとなくだけどもレンタル期間中三回も観てしまうのはこういう要素によるものだと思う。面白くないという先入観のある人ほど一見の価値あり。オススメです。


オリエンタルラジオって女ウケ芸人だと思っていたけれども違うような気がする。それは特に中田敦彦のパーソナリティによるものだろう。彼の狂気、獣性、暗さというのは女性は引くがむしろ男ウケはよい。一部のカルト的支持層はおそらく男性だ、あくまで推測だけど。


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