記憶の忘れ物

僕は嫌な子供だった。
周りから見ても自分から見ても。
従順なようで何を考えているか分からない、そんな子どもだった。


野球は楽しかった。
でも少年野球は嫌いだった。
僕が少年野球に行かないと不機嫌になる父親が嫌いだった。
父親の気持ちが理解できなかった。
なんとなく野球をやっている自分がいちばん嫌いだった。


僕は理解できないものが嫌いだった。
なんで早朝に練習するのか、なんで打撃練習はしないのか、なんで野次を飛ばしあうのか。
それでも運動神経はあったらしく、練習はそつなくこなした。
褒められて悪い気はしなかった。
そんな自分が嫌いだった。


別の小学校と試合があった。
自分の打順になったが、バットを振らなかった。
ボールが真ん中に来なかったからだ。
でも判定はストライクだった。
次の球も。
とにかくバットを振れ、と言われた。
とても高い球を振った。
空振りだった。
僕はストライクゾーンを知らなかった。


守備についた。
僕はセンターだった。
ボールが全くこないのも疲れるのだと初めて知った。
僕はミスをした。
走者が三塁に向かっていた。
投げてももう間に合わないが、僕はもう投げてしまっていた。
ボールは三塁手に届かなかった。
ボールはワンバウンドして場外に出た。
相手チームが、回れ回れ、と言っていた。
自分のチームは静かだった。
チームは大差で負けた。


同じ日、別のチームとの試合ではヒットを打ったような気がする。
アウトになったような気もする。
でもチームは勝った。
よく憶えていない。


なんでバットを振らなかった?
僕のせいで負けた?
あれは本当に僕のミスだったか?
よく憶えていない。
だから余計に、未だに頭から離れない。


僕はあれから野球をやらなくなった。
でも野球は嫌いじゃなかった。
僕はただ、キャッチボールがしたかったんだ。